2024年度の中国税収及び財政支出総まとめ
2024年度の中国税収を直近3年のデータとあわせてみてみよう[1]。
表1:一般公共予算収入状況 (単位:億人民元)
文書2財政収入総額では約22兆元(440兆日本円)と前年比1.3%増なのだが、税収でみると前年比3.4%の減少だ。コロナ明けの2022年度も税収が減少したのだが、昨年は初めて平時において税収が減少となった。
税目別でみると総収入の30%を占める国内増値税の2,660億元減((-)3.8%)、国内非消費の輸出貨物にかかる増値税還付の増加(2,159億元の税収減)が目立つところで、それ以外の税目については特段の大きな変動はない。
優遇政策もあるので割り引いてみたとしても、国内景気の鈍化が税収にも表れているのだろう。
税収の減少を補っているのが非税収入だがその内訳には、中央及び地方における行政事業収入、政府基金収入、国有資源有償使用収入、国有事業投資収入、過料罰金などがある。地区別でみると吉林、山西、江蘇、内蒙古、甘粛、浙江省などで増収が顕著であった。月別では3、6、9、12月の四半期締め月に増加するのも特徴的だ[2]。中国煙草からの収入も大きいと言われている。
2023年度の非税収入は税収の増加を減殺するかのように減少し、2024年度は一転して税収減を補うように増加している。非税収入が税収の増減を緩和する安全弁のような役割を果たしているようだ。
景気の下支えや投資の呼び込みに重点を置くなら、増税策や積極的な徴税は手控えたいところだろう。安全弁にどこまで頼れるのか、中央の税務政策担当者としては今年の税収動向を見据えながらの舵取りとなるのだろうが、進出企業としては現場の税務行政が法と秩序に則り滞りなく行われさえすればそれ以上は何も望まないというところだろう。
企業所得税、個人所得税に加えて非税収入の50%を国有企業からの実質的な税収と見立てて直接税とし、国内増値税、国内消費税、輸入増値税/消費税、輸出増値税(還付)を間接税として計算した2024年度の直間比率は48:52となった。ちなみに財務省が公開している直間比率の国別比較では日本の直接税:間接税比率が66:34[3]であり、垂直的公平性に傾いているのはデータからは後者のようにみえる。
次に財政支出をみてみよう。
表2:一般公共予算支出状況 (単位:億人民元)
文書4教育、社会保障/就業を中心に支出の増大が引き続きプライマリーバランスを悪化させているが、科学技術支出が全体の4%を占め1兆元(20兆日本円)超えの水準を保っていることは目を惹く。科学技術支出の中央政府分は3,708億元[4]とあり、これが科学技術振興予算だとすると7.6兆日本円となる。一方、本邦の令和7年度一般会計歳出概算では科学技術振興費は1.4兆円[5]とあり前年比0.9%と微増に留まる。
防衛費は全支出の6%、前年比5.4%の増加だ。国債残高[6]と含めてGDP比をみてみよう。
文書5国防比の対GDP比率は1.23%と突出しているようには見えないものの、GDP自体が2024年度で135兆元(2,780日本円)あるのだから計算上はそうなるだろう。
国債残高の対GDP比率はじわじわと上がってきているが、ここには地方債が含まれていないので、
地方債も含めた政府部門の債務残高を国家金融&発展実験室(National Institution for Finance & Development)[7]の公表するNIFD季報-宏观杠杆率(Macro-Leverage)でみてみよう。
政府部門の2024年末における対GDPマクロレバレッジは60.8%とあり、中央政府の26%以外にも地方債の発行残高が対GDP比で35%あり、増加傾向にある点は継続的にウォッチすべきポイントといえるだろう。
今回説明していないところであるが、日系企業としては社会保険会計も気になるところだ。収支バランスも然ることながら、運用パフォーマンスはどうだろうか。駐在員の社会保険加入政策にも関係してきそうなのでこのあたりも要観察項目であると考えている。
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[1] 速報ベースだがまとまっているのでこちらが見やすい。中国財政部https://gks.mof.gov.cn/tongjishuju/202501/t20250124_3955083.htm
[2] 人事評価に影響するのであろうか、興味深い推移だ。
[3] 2021度実績とデータは多少古い。米はさておき英独仏より日本の直接税比率が高いのは垂直的公平性をアピールしたいから? https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/015.pdf
[4] 中国財政部 https://yss.mof.gov.cn/2024zyczys/202403/t20240325_3931307.htm
[5] 財務省HP https://www.mof.go.jp/policy/budget/budger_workflow/budget/fy2025/seifuan2025/03.pdf
[6] 中国財政部 https://yss.mof.gov.cn/2024zyczys/202403/t20240325_3931287.htm
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