一次データから読み込む中国税収2023

新聞報道では「中国国家外貨管理局の国際収支統計によると“2023年度の海外からの対中直接投資は前年比8割減の330億ドルと30年ぶりの低水準に留まった”」などと記される。税務通達だけでなく中国情報については正確かつ公平な目でみたいので、なるべく一次情報を確認するようにしている。以下は国家外匯管理局ウェブサイトにある表の抜粋である 。

(単位:億米ドル)
図1

金額の出所はここの“2.2.1.1.2 直接投資負債”にある【330】かと思われる。しかし、当該額は“2.2.1.1.2.1股权(持分)”【621】から、日本など海外から中国関連会社への親子ローンの返済等債務の減少である“2.2.1.1.2.2関連企業債務”【-291】を差し引いた純額であるからして、2023年度の中国直接投資というのであれば621億ドルなのではないか、と思うがどうだろうか。それよりも中国から海外への直接投資“2.2.1.1.1.1股权(持分)”1111億ドルの方に目が向く。私なら見出しは“30年ぶりの低水準”より、“投資される国から投資する国へ”にする。

さて本題に入ろう。中国税収2023 を一次データから読み込んでみる。

表1:一般公共予算収入状況   (単位:億人民元)
表1 増減比較のため直近3年のデータを並べてみた。税収全体としては8.7%の増収と回復したが、税目別でみると国内増値税(42.3%増)以外は主要税目が軒並み減収となっていることに目が向く。景気刺激策としての企業、家計への税優遇の結果だろう。税目別比率には大きな変動はなく、国内増値税、国内消費税、輸入増値税/消費税、輸出増値税(還付)の純額としての間接税比率は40%、直接税である企業所得税及び個人所得税の比率26%を上回り、間高直低の直間比率である。

当該データは毎年の“収支状況”であるからして、収入と同時に支出も開示されているのでそれも見てみよう。

表2:一般公共予算支出状況   (単位:億人民元)
表2 まず、どうしても目についてしまうのが収入合計を上回る支出合計だ。なので差額を計算し、表に加えている。国債/地方債発行による資金調達と推測される。
各項目では社会保障、教育は比率、伸び率ともに高い。
次に目につくのが、”その他”の金額の大きさ。一次データでは国債利息までを個別開示していて“その他”として当該金額が記されているわけではなく、筆者が合計から個別開示項目を差し引いて算出したものだ。支出全体の30%は“その他”で括るには大きすぎる金額である。考えられるとすれば国債等の償還か。国防費も項目として上がっていない(積極開示する項目ではないのか?)。

内訳は同じ財政部の“各年度全国財政決算 ”のデータにあった。

表3:2021/2022全国一般公共予算支出決算表   (単位:億人民元)
表3 支出合計が微妙に一致しないのは統計誤差か、気にしないことにしよう。その他の内訳には、一般公共服務(政府部門人件費)、国防、公共安全、資源探索/工業情報、住宅保障と続く。
各年度の支出決算は毎年7月ごろに開示されるのでその他の内訳は2021年及び2022 年のみ記載している。2023年度は23年3月に開示された“2023年中央一般公共支出予算表 ”にある明らかに地方支出のない“外交支出”と“国防支出”のみ記載している。国と地方を合わせた“全国”ベースの支出数値は決算ベースでは開示があるものの、予算ベースでは、中央予算と地方予算に分かれており合算数値に辿り着けなかったため諦めた 。
ここではニュースでよく取り沙汰される国防費について掘り下げてみよう。財政支出に占める国防費の割合は5.7%、2023年度では15,537億元、日本円で32兆円である。日本の2024年度予算案 は歳出112兆5717億円に対して防衛関係費は7兆9172億円、歳出に対する比率は7%になる。
国防費は対GDPで2%などと比べられることが多いので対GDP比率も見てみよう。2023年度の中国GDPは速報ベースで126兆582億元 と開示されており、中国国防費の対GDP比率は1.23%である。対して日本のGDPは2023暦年名目で591.5兆円 とあるので日本のそれは1.33%だ。中国国防費の金額ベースの伸び率が5.3%とGDP伸び率を上回る勢いなので対GDP比率は高まるかもしれないが、総じて日本の国防費と予算ベースでは大きな違いはないようにみえる。
さて、当初“その他”にあると思っていた国債等償還がみあたらない。そもそも日本の予算説明では国債等発行を歳入に入れ、償還を歳出に入れて入りと出をバランスさせる表記 をする。
図2 これに対して中国の予算は財政収入と財政支出の総額からして一致していない。国債や地方債の毎年の発行額及び償還額は予算とは別のデータソースから拾ってきて合算しないと日本様の収支バランスした表を完成させられない。国債に関しては発行残高や対GDP比も財政健全指数の目安なのでこれらの数値も抑えたいところだ。貸借一致しないと落ち着かないのは職業柄か性格か。どうも税務とかけ離れたところまできてしまったようだ。中国財政の全体像を一覧で把握する資料の作成は断念した。
政府部門の債務残高は国家金融&発展実験室(National Institution for Finance & Development)の公表しているNIFD季報-宏观杠杆率(Macro-Leverage) によれば、政府部門の2023年度における対GDPマクロレバレッジは55.9%。家計や企業を含めた対GDPマクロレバレッジは287.8%である。直近3年でみても財政支出の純超過が毎年4兆元、5兆元と対GDPで4%、5%と積み上がっており、特に2008年金融危機から支出超過予算が続いていることとも符合する。
対して日本。財務省作成「これからの日本のために財政を考える」によれば、日本の“借金”の状況として、普通国債残高が2023年末で1000兆円を超え、対GDP比率は250%超になると警告している 。
政府債務を中国では“レバレッジ”といい、日本では“借金”というところが国柄を表していると思った。

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