本社監査役/内部監査人が押さえておくべき中国会社法の変更点

本社監査役/内部監査人が押さえておくべき中国会社法の変更点

2023年末に改定され2024年7月1日から施行される改定中国会社法(以下「新法」)は中国法人のコーポレートガバナンスにも関連する法規であり、中国法人の監事(日本の監査役に相当)のみならず、本社の監査役や内部監査人も押さえておくべき内容が含まれる。コーポレートガバナンス(安全性)からと経営実務(効率性)からの両面から本改定を考えてみよう。

従業員代表の董事任命に関して(新法68条)

誰を選ぶか

従業員300人以上の有限責任会社では、監事会を設置してそこに従業員代表が任命されている会社を除き、董事会構成員の内に従業員代表を置くこと、と規定された[1]。当該代表は従業員代表大会なとの民主的な選挙を経て任命された者である必要がある。代表となれる者の資格要件として、例えば中国国籍を有する者、などの国籍条項は見あたらず、当該法人の従業員であれば外国籍従業員であっても認められうる。ただし、その可能性を全く排除するものではないものの、総経理や高級管理職に就く外国籍職員はこれまでも董事会メンバーであったわけであるから、法改正の趣旨から推察するに、それらの者以外から選ばれることが望ましいだろう。

従業員代表の選定人数にはきまりがない。当該法人の従業員たり得る外国籍従業員としては、当該法人と直接、雇用契約を結んでいる者である必要があるだろう。日本からの出向者であっても現地法人と形式的に雇用契約を締結することは就業ビザ取得の時点で提示を求められることが多いため、形の上だけ現地法人と雇用契約を締結していることもある。形式的には被任命者としての資格は有しているだろう。管理職にある職員(中国籍でも外国籍でも)は任命されうるか。労働組合の代表とは異なり、董事という経営の意思決定に関わるメンバーの一員になるわけであるから、逆に管理職ぐらいの経験者が選ばれるべきであろうと思う。これらの観点から考えるに、従業員代表を選ぶとしたら、会社の歴史をよく知る古参の中国籍従業員或いは中国人スタッフとのコミュニケーションに問題のない語学の達者な(日本人)出向者のいずれか、ということになろうか。

何を話すか

従業員の代表として選ばれた董事(以下「従業員董事」)は、その選定母体たる従業員へ董事会の内容を報告する義務を負うものではないし、逆に当該内容を外部に逐一報告するようであっては経営会議の体を成さないであろう。当然ながら各董事は董事会で話される内容について守秘義務を負う。それでも情報管理の視点から考えれば、必要なメンバーに必要なだけの情報提供を、ということが求められよう。董事会を毎月の経営会議体としてきた会社では、新メンバーの加入により会社経営の定期的な報告を主とする会議体と会社の重要な意思決定を行うそれとを分離することになるかもしれない。董事会の専決事項として新法67条に挙げられているものには、(1)株主会の招集や議案の策定、(2)会社の経営計画や投資案件の決定、(3)利益処分案の策定、 (4)増資、減資、合併、分割、清算等の議案策定、(5)会社組織の設置決定、(6)総経理、副総経理、財務責任者の招聘、解雇、報酬などの決定、(7)会社の基本的な管理規定、管理体制の決定、などがあり、少なくともこれらは董事会で決定する必要がある。

董事会で決定された年度経営計画の毎月の進捗報告、目標達成のための検討、部門間のすり合わせなどは別の会議体で討議することに矛盾はない。一部メンバーの露骨な除外と映らない配慮の上でそれぞれの目的に相応しい会議体を設置するのがよいだろう。

従業員代表の監事任命(新法76条)

監事会を設置してそこに従業員代表を任命する場合には、従業員董事の任命は不要とされる。

監事会は、株主代表、大株主の従業員代表などから3名以上のメンバーで構成され、このうち従業員代表は三分の一以上とすること、とされる。従業員代表の監事選定では董事選定と同じく従業員代表大会なとの民主的な選挙を経て任命された者である必要がある。従業員董事に代えて監事会を設置する場合には、一名の従業員代表、二名の本社社員(或いは本社の任命する外部監査人)が現実的となろう。

監事(会)の職権には、(1)会社の帳簿の検査、(2)董事、高級管理職員の業務執行の監督、(3)董事、高級管理職員の解任動議の株主会への提出、(4)株主会召集の発議、(5)董事が召集しない場合の株主会の召集及び主催、(6)株主会への議案提出、がある。董事会をそのまま経営会議体として残したいなら、監事会を設置して従業員監事を任命する、という代案が考えられよう。

いずれの監事も董事会に列席することができる(新法79条)のではあるが、従業員監事は一般監事、株主代表監事を主席監事とし、主席監事が(毎回)董事会に出席、とすることであれば角が立たないであろう。但し主席監事は監事会において、出席した董事会の議案につき他の監事に報告する義務は当然ある。また監事会は董事、高級管理職員に職務執行報告を求めることができる点にも注意を払う必要があろう。

現地日系各社に話を聞くところでは、施行されたところでもすぐに経営に影響を与える事項ではないため、様子見としている会社が多いようだ。安全性と効率性のバランスが取れた組織体制を考える時間はまだ十分にある。

[1] 従業員300人未満の会社においては従業員代表の董事任命は任意である。

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